ラ・ポールの徹底解説vol.1(3/4)
5.経営革新のデメリット② ― 組織崩壊・人材流出という“見えにくいリスク”
経営革新のデメリットとして、前章では「失敗リスク」と「資金的ダメージ」という分かりやすい危険性についてお伝えしました。しかし、実務の現場において、実はそれ以上に深刻な影響を及ぼすことがあるのが、「組織崩壊」や「人材流出」という、目に見えにくいリスクです。 これは財務諸表にはすぐに表れませんが、気づいたときには取り返しのつかない状態まで進行しているケースも少なくありません。 経営革新は、本質的に「これまでの前提を壊す行為」です。
業務のやり方、評価の基準、働き方、役割分担、意思決定のスピード――あらゆるものが変わっていきます。これは組織にとって大きな刺激であり、成長のきっかけにもなりますが、同時に強烈なストレスでもあります。人は本能的に「変化」を恐れる生き物であり、特に長年同じ会社で同じやり方に慣れてきた社員ほど、その傾向は強くなります。
経営革新が始まった直後、現場では次のような感情が渦巻くことが少なくありません。
- 「今までのやり方を否定されたようでつらい」
- 「今までのやり方を否定されたようでつらい」
- 「新しいことについていける自信がない」
こうした不安が言葉にならないまま積み重なると、やがて不満や不信感へと姿を変え、組織の空気を静かに、しかし確実に蝕んでいきます。
特に注意が必要なのが、経営者と現場の“温度差”です。
経営者にとって、経営革新は「未来への希望」であり「会社を守るための決断」です。しかし現場の社員から見れば、それは突然降って湧いた「仕事のやり方が変わる」「求められるレベルが上がる」「評価基準が変わる」という不安要素の塊に見えることがあります。この温度差を放置したままスピードだけを優先してしまうと、社員の気持ちは急速に経営から離れていきます。
その象徴が、キーパーソンの離職です。
経営革新の途中で、優秀なベテラン社員や中堅社員が突然退職してしまう――これは決して珍しい話ではありません。本人は「新しいやり方についていけない」「価値観が合わなくなった」と静かに去っていきますが、その背後では、長年培ってきたノウハウ、人脈、現場を回す力までもが、一気に失われてしまいます。
これは、単なる人員減少以上に会社にとって大きな打撃となり、場合によっては経営革新そのものが頓挫する原因にもなります。
また、経営革新は「組織内の対立構造」を生みやすいという側面も持っています。
変化を前向きに捉え、積極的に挑戦しようとする層。
一方で、これまでのやり方を守りたい、できるだけ変わりたくない層。
この二つの価値観が組織内でぶつかることで、見えない分断が生まれていきます。表面上は何事もないように見えても、水面下では不満と不信が蓄積し、やがて職場の雰囲気は殺伐としたものへと変わっていきます。
さらに深刻なのが、経営者自身が“孤立”してしまうケースです。
「会社を良くしたい」という純粋な思いで始めた経営革新が、いつの間にか、「誰も本音を話してくれない」「何を考えているのか分からない」「協力してくれているようで、どこか距離を感じる」といった状態に変わってしまうことがあります。これは、経営者が正しい・間違っているという問題ではなく、「対話が足りなかった」「説明が不十分だった」「不安に寄り添いきれなかった」といった、プロセスの積み重ねの結果なのです。
ここで重要なのは、組織崩壊や人材流出は、経営革新そのものが悪いのではなく、「進め方」を誤った結果として起こるという点です。
経営者が想いだけで突き進み、現場の声を十分に拾わず、説明を省き、結果だけを求めすぎたとき、組織は静かに壊れていきます。逆に言えば、このリスクは「対話」「共有」「段階的な変化」を意識することで、大きく低減させることが可能でもあります。
経営革新に挑む際、経営者に最も求められる姿勢の一つが、「変えるべきところ」と「守るべきもの」を見極める力です。
業務のやり方は変えても、人を大切にする姿勢は変えない。
評価の基準は変えても、これまで支えてくれた人への敬意は失わない。
スピードは上げても、説明と対話の時間だけは省かない。
こうした積み重ねがあるかどうかで、経営革新は「組織を強くする改革」にもなり、「組織を壊す改革」にもなり得るのです。
経営革新における人材流出や組織崩壊のリスクは、数字には表れにくく、気づきにくく、そして回復に最も時間がかかるデメリットです。
だからこそ、資金計画や事業計画と同じくらい、「人の感情」と「組織の空気」に対して、繊細であること」が、経営者には強く求められます。
6.経営革新のデメリット③ ― 経営者にかかる圧倒的な精神的負担と孤独
経営革新の話題において、売上や資金、組織の話はよく語られますが、意外なほど正面から語られないのが、「経営者本人にかかる精神的負担」という問題です。実務の現場で多くの経営者と接していると、経営革新は単なる経営判断ではなく、経営者自身の人生そのものを揺さぶる出来事であると強く感じさせられます。
経営革新とは、これまで築いてきたものを一度壊し、未知の領域へ踏み出す行為です。 これは、社員にとっても大きな変化ですが、そのすべての責任を最終的に背負うのは、他ならぬ経営者です。
- 「失敗すれば会社が傾く」
- 「社員の生活を守れなくなる」
- 「取引先に迷惑がかかる」
- 「家族にも影響が及ぶ」
――こうした重圧は、どれほど経験を積んだ経営者であっても、簡単に受け止められるものではありません。
特に経営革新の初期段階は、“結果が出ない不安”が最も強くのしかかる時期です。
新事業の売上が立たない、想定よりもコストがかさむ、社員が戸惑っている、取引先から様子見をされる。こうした状況の中で、経営者は毎日のように「この判断は本当に正しかったのか」「今、引き返すべきではないのか」と自問自答を繰り返すことになります。しかし、この不安を社員や家族にすべて正直に吐き出せる経営者は、実は多くありません。結果として、孤独の中でプレッシャーを抱え続ける状態に陥りやすくなるのです。
また、経営革新は経営者の「時間」も容赦なく奪っていきます。
新しい事業の検討、金融機関との打ち合わせ、専門家との相談、社員への説明、トラブル対応――通常業務に加えて膨大な追加業務が発生し、心身ともに休まる時間は急激に減っていきます。睡眠時間が削られ、休日も満足に取れず、慢性的な疲労と緊張状態の中で意思決定を続けなければならない。これは、想像以上に過酷な状況です。
さらに厳しいのは、「弱音を吐けない立場」に立たされることです。
社員の前では明るく振る舞い、「大丈夫だ」「必ず良くなる」と言い続けなければならない。金融機関に対しても、不安より希望を語らなければならない。家族に対しては、できるだけ心配をかけたくない。こうして、経営者の本音は行き場を失い、内側にどんどん溜まっていきます。これが長期間続くと、強いストレスや燃え尽き症候群、さらには心身の不調として表面化してしまうケースも珍しくありません。
また、経営革新が進むにつれて、「相談できる相手がいなくなる」という孤独を感じる経営者も非常に多いのが実情です。
社員にはすべてを話せない。家族には心配をかけたくない。これまでの経営仲間とは、立場や状況が変わってしまった。こうして、気づけば「本音で相談できる相手が誰もいない」という状態に陥ってしまうのです。これは、外からは見えにくいものの、経営者を内側から静かに追い詰めていく、極めて深刻なデメリットの一つです。
さらに、経営革新には「決断の連続」が伴います。
- 撤退するのか、続けるのか。
- 追加投資をするのか、控えるのか。
- 人を守るのか、整理するのか。
これらの決断に、正解はありません。すべてが「結果論」でしか評価されない世界です。その中で、経営者は常に「間違っているかもしれない選択」を、あえて選び続けなければならない立場に立たされます。この精神的な消耗は、外から見ている以上に、はるかに重たいものです。
しかし、ここで誤解してはならないのは、この精神的負担は、経営者の弱さでも、能力不足でもない、ということです。
むしろ、責任を真剣に引き受け、会社と社員の未来を本気で考えているからこそ、生まれる重圧なのです。何も感じず、何も悩まない経営者の方が、はるかに危うい存在だとも言えるでしょう。
だからこそ、経営革新に挑む経営者にとって極めて重要なのが、「一人で抱え込まないこと」です。
信頼できる専門家、同じ立場で悩む経営者仲間、第三者として冷静な視点を持つ相談相手。こうした存在を意識的に作り、「吐き出せる場所」を確保することは、経営戦略と同じくらい重要な“経営の土台”です。精神的に追い詰められた状態では、どれほど優れた戦略も正しく実行することはできません。
経営革新のデメリットとしての精神的負担は、数値化できず、他人にも見えにくく、しかし確実に経営者を消耗させていく、最も静かで、最も重たいリスクです。
この現実を正しく認識し、自分自身の心身を守りながら進んでいくことこそが、「長く勝ち続けるための経営革新」には不可欠なのです。
経営革新のメリット・デメリット― 成長のチャンスとその裏にある現実 ―
ラ・ポールの徹底解説vol.1(全4ページ)
